護摩、お焚上げと法令

 宗教の行事には、「護摩」「お焚上げ」と呼ばれる火気を使用したものがあります。護摩やお焚上げ以外にも、たいまつを使った「火祭」なども行われています。このように、火気を使った宗教行事がありますが、社会一般的に、物を燃やすことを禁止されているイメージがあり、法令でこれら宗教行事はどのように捉えられているのか、今回、この考察をしたいと思います。

 まず、「護摩」とは、日本においては、主に仏教寺院(密教系が多いと思われます)で行われている行事で、コトバンクでは、次のように説明されています。

供物(くもつ)を火中に投じ、諸尊に供養する修法(しゅほう)。
コトバンク 「護摩」 より
https://kotobank.jp/word/%E8%AD%B7%E6%91%A9-66048

お寺のお堂で、僧侶が読経しながら、燃えさかる火の中へ護摩木をくべる行事をメディアで見た方も多いでしょう。

 次に、「お焚上げ」とは、

1 神社の庭でかがり火をたくこと。お焚き上げ。
2 護摩(ごま)の火に札をくべ、その燃えがらの昇りぐあいで吉凶を占うこと。
3 江戸時代以来の富士講の行事。浅間(せんげん)神社や富士塚の上で、先達(せんだつ)の行者が護摩の火を焚き、無病息災・家内安全などを祈る。
コトバンク 「焚上げ」 より
https://kotobank.jp/word/%E7%84%9A%E3%81%8D%E4%B8%8A%E3%81%92-559595

コトバンクではこのように説明されています。お焚上げとは、護摩を含み、ひろい概念であるとされています。イメージとしては、とんど焼き、どんど焼き、どんと焼き、左義長など、野外で行うものを連想します。ただし、各宗教によって、概念が違ってくるかもしれませんし、それでよいと思います。

本ブログ記事では、護摩を含んだ「お焚上げ等」という概念で考えようと思います。

野外で火を起こし、(廃棄)物を燃やす行為について、国の法律では「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」に規定があります。条文を引用します。

(定義)
第2条 この法律において「廃棄物」とは、ごみ、粗大ごみ、燃え殻、汚泥、ふん尿、廃油、廃酸、廃アルカリ、動物の死体その他の汚物又は不要物であつて、固形状又は液状のもの(放射性物質及びこれによつて汚染された物を除く。)をいう。
 (以下略)

お焚上げに供される品が廃棄物かどうかは、一旦置いておきます。ともかく、物を焼くという行為全般について定めているとご理解下さい。

(焼却禁止)
第16条の2 何人も、次に掲げる方法による場合を除き、廃棄物を焼却してはならない。
 (中略)
三 公益上若しくは社会の慣習上やむを得ない廃棄物の焼却又は周辺地域の生活環境に与える影響が軽微である廃棄物の焼却として政令で定めるもの

この第16条の2の第3号に記載されている行為は、「焼却してはならない」から除かれ、焼却してもやむを得ないという意味となります。次に「政令で定めるもの」の政令を見てみましょう。この政令は、「廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行令」のことです。この政令第14条に、

(焼却禁止の例外となる廃棄物の焼却)
第14条 法第16条の2第3号の政令で定める廃棄物の焼却は、次のとおりとする。
(1,2号略)
三 風俗慣習上又は宗教上の行事を行うために必要な廃棄物の焼却
(4号略)
五 たき火その他日常生活を営む上で通常行われる廃棄物の焼却であつて軽微なもの

とあり、第14条第3号に「風俗慣習上又は宗教上の行事」とあることから、お焚上げは風俗慣習上又は宗教上の行事であるので、禁止されていないこととなります。

 ちなみに、第5号も掲載しました。「たき火その他日常生活を営む上で通常行われる廃棄物の焼却であつて軽微なもの」とあり、これも法律上禁止されていません。ですが、都道府県又は市町村によって条例で規制しているところもあります。上記のお焚上げ等も関係してきますので、そちらも見てみましょう。

 当事務所のある東京都を例にとります。「都民の健康と安全を確保する環境に関する条例」が制定されていて、

(廃棄物等の焼却行為の制限)
第126条 何人も、廃棄物等を焼却するときは、ダイオキシン類(ダイオキシン類対策特別措置法(平成11年法律第105号)第2条第1項に規定するダイオキシン類をいう。)等による人の健康及び生活環境への支障を防ぐために、小規模の廃棄物焼却炉(火床面積0.5㎡未満であって、焼却能力が一時間当たり50キログラム未満の廃棄物焼却炉をいう。以下同じ。)により、又は廃棄物焼却炉を用いずに、廃棄物等を焼却してはならない。ただし、規則で定める小規模の廃棄物焼却炉による焼却及び伝統的行事等の焼却行為については、この限りでない。

と、ただし書きの例外を除いてひろく廃棄物焼却を禁止しています。このただし書きに「規則で定める小規模の廃棄物焼却炉による焼却」とあり、都及び各市区町村で、使用できる小規模焼却炉が定められています。興味のある方はご自身でお調べ下さい。

 最後に記載されている「伝統的行事等の焼却行為」は、「都民の健康と安全を確保する環境に関する条例施行規則」に詳細の規定がありますので、そちらを見てみましょう。

(廃棄物等の焼却行為の制限)
第62条 (第1項略)
2 条例第126条ただし書に規定する焼却行為は、次に掲げるものとする。この場合において、周辺地域の生活環境への支障の防止にできる限り配慮したものとする。
一 伝統的行事及び風俗慣習上の行事のための焼却行為
二 学校教育及び社会教育活動上必要な焼却行為

第1号の「伝統的行事及び風俗慣習上の行事のための焼却行為」は、禁止されていないということになります。前記「廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行令」との語句と微妙に違い、「伝統的行事及び風俗慣習上の行事」の記載となっていて、これに宗教行事のお焚上げ等が該当するかという問題が残ります。

 そこで、大田区役所のHPを見てみることにします。

「焼却行為の禁止」
https://www.city.ota.tokyo.jp/seikatsu/sumaimachinami/kankyou/taiki/syoukyaku_kinshi.html

このページの第2段落で、

例外として認められる焼却行為

(1)略 (認められる小規模廃棄物焼却炉の記載があります)
(2)同条第2項の規定により、周辺環境の生活環境への支障の防止にできる限り配慮したもの。
 ア 伝統的行事及び風俗慣習上の行事のための焼却行為。
  神社、仏閣で行う宗教上の行事、どんと焼き、お炊き上げ等。
 イ 学校教育及び社会教育活動上必要な焼却行為。
  キャンプファイヤ、焼き芋、陶器づくり等。
 ウ 知事(区長)が特にやむを得ないと認める焼却行為。
 (ア)災害時の応急対策のため行うもの。
 (イ)消火訓練や消防活動のために行うもの
 (ウ)樹木、農作物の病害虫の防除、肥料作り、土壌改良等、林業や農業又は漁業を営む上で行わざるを得ないもの。
 (エ)人が利用する風呂や暖炉(屋外等で暖を取るための焼却行為も含む。)の加熱のために行うもの。

と、具体的な記載がありました。(2)のアに「神社、仏閣で行う宗教上の行事、どんと焼き、お炊き上げ等。(原文ママ)」とありますので、都内でも、お焚上げ等は可能であるということになります。ただし、「周辺環境の生活環境への支障の防止にできる限り配慮したもの」という注意書きもあります。密集した地域などでは、周辺への配慮もお願いします。

 はじめの方で書きましたが、そもそもお焚上げ等で火気に供する品は、たとえばしめ縄や、お札、ダルマなどそれぞれ信仰に基づく品が多いと思いますので、これを廃棄物とみなすのは如何なものかという議論も出ると思われます。今回は、この点には触れずに、法令上の見解をお伝えしました。

 
【まとめ】
1.お焚上げ等の火気を使用した宗教行事は、原則禁止されていない。
2.行事を行うときは、周辺地域に配慮していただきたい。配慮のない行為は、行政指導もありうる。
3.焼却行為を禁止している地域がないとはいえないので、新規にお焚上げ等を行うときは、お焚上げ等を行う市区町村に相談していただきたい。

 

※ 今回のブログ記事は、火を使った宗教行事の一般的な概念を想定しているものです。個別の案件にすべて合致することを約するものではありません。個別の案件については、お焚上げ等を行う市区町村の担当部署にご相談されるか、行政書士橋本までご相談下さい。