宗教法人の解散と残余財産の国庫帰属の実務の流れ ~「宗務時報」より~

 今回は、文化庁HP「宗務時報」
https://www.bunka.go.jp/tokei_hakusho_shuppan/shuppanbutsu/shumujiho/index.html

に掲載されている「宗務時報」No.125の、「紹介 宗教法人「金皇寺」(島根県大田市)の解散と残余財産の国庫帰属について」(41~44ページ・PDFファイル47~50ページ)
https://www.bunka.go.jp/tokei_hakusho_shuppan/shuppanbutsu/shumujiho/pdf/125jiho.pdf
をご紹介したいと思います。

 「宗務時報」掲載記事は、実際にある包括宗教法人に属する被包括宗教法人の任意解散手続、及び解散後の清算活動(国庫に帰属)の概要を述べているもので、同誌発刊当時(令和3年3月発行)、現在進行形で手続を継続しているものです。宗教法人の任意解散に関する実務情報は、なかなか目に触れる機会がなく貴重な資料だと思います。

 宗教法人の任意解散という内容は、これまで私が書いてきた宗教法人関係記事で扱うことのなかったもので、任意解散の絶対数が少ない、関係者間で意見の相違などあるときは、主に弁護士案件となる、などの理由で取り扱わなかったものです。

 ただ、今年2月に開催された文化庁主催の「令和2年度 不活動宗教法人対策会議」にリモート参加し、不活動宗教法人の実情を知ることとなり、仮に手続全般を通し携わることができなくとも知識を持つことは大切だと思った次第です。

 また、現在の新型コロナウイルス感染症流行の最中、昨年記載した「宗教上の組織もしくは団体」へは各種給付金等が支給されなかったことなど、宗教法人や宗教者を取り巻く環境も厳しくなり、宗教法人の合併や解散などを考えなくてはならない方も出てきていると推測します。そのような方への情報提供として掲載するものです。

 もちろん、そのまま掲載するのではなく、抽出した実務手続の流れを概略にして番号立てていきたいと思います。

 また、上記宗務時報記事には、具体的な地域・名称等が記載されていますが、引用するに当たり、一般化するべくアルファベット表記などに変更していることをあらかじめ申し添えます。

第1 登場する宗教法人等

 (1) 解散する宗教法人関係者
  ⅰ) 宗教法人A寺
  ⅱ) A寺の元檀信徒

 (2) A寺を包括する宗教法人B宗の関係者
  ⅲ) 包括宗教法人B宗(の事務局)
  ⅳ) A寺が所属するC教区役職者(B宗の地方組織)
  ⅴ) 後に、B宗から任命されるA寺の特命住職D(代表役員)

第2 解散事由

 (1) 代表役員の死亡(後継者なし)
 (2) 寺有財産(境内地・境内建物、山林等)あり
 (3) 境内地、境内建物の荒廃
 (4) 檀信徒が離散していること
 (5) 過疎地域であり、活動再開を見込めないこと

第3 実務手続の流れ

1.A寺の住職(代表役員)の死亡

2.B宗にC教区から相談、B宗が関与

3.B宗による視察、C教区及び元檀信徒等と協議し、
  他宗教法人との合併又は解散の意向を確認

4.B宗からA寺の特命住職Dの選定、同人の代表役員就任

5.寺有財産の整理着手、及び法人合併の可否の確認

6.周辺寺院へ打診 → 合併断念

7.A寺の解散による残余財産の宗教法人以外へ帰属の可否の確認
  地方自治体(県・市)、森林組合等 → 断念

8.経年あり、B宗は、関係加盟団体(全日本仏教会)の役職者へ、
  残余財産を国庫に帰属でき得るか相談、財務省地方財務局へ問合せ

9.財務局から、次の具体的指導あり
  ① A寺の解散
  ② 清算人の選定

10.A寺責任役員の会議を行い、次の事項の決定
  ① 法人解散
  ② 残余財産を国庫に帰属させる
  ③ 特命住職D(代表役員)を清算人Dとする

11.A寺よりB宗へ寺院解散承認申請、B宗から寺院解散承認

12.県知事へA寺の解散認証申請、県知事の解散認証

13.清算人Dの登記

14.官報へ解散の公告(3回掲載 注:宗教法人法 第49条の3)

15.清算人Dが財務局へ事前協議書類の提出

16.財務局の事前協議にかかる現地調査(清算人D、その他関係人立会)

17.財務局から清算人Dへ回答書、回答書による補完・措置事項の提示
  ① 倒壊のおそれのある建物の解体
  ② 国庫帰属予定土地の地目変更(墓地→山林等)、所有権保存登記
  ③ 建物内の動産撤去
  ④ 墓石・灯籠等の措置(墓じまい)
  ⑤ 急斜面等の法面崩落防止措置

18.補完、措置事項を完遂するため、清算人D、元檀信徒、B宗が
  協力して事に当たる(記事上、継続中)

※ ほかに、B宗の所轄庁である文化庁とも相談

時間経過は、おおむね7年に及んだようですが、包括宗教法人か関わり、地元の関係者も協力的のようでしたので、平穏に行われたような感じをうけます。

 かかった費用など金員には触れていませんので何とも言い難いのですが、寺有財産の処分、財務局からの補完・措置事項などで、かなりの費用がかかっているものと推測します。

【まとめ】

解散事由に該当すると考えられる関係者は、
・包括宗教法人に属する被包括宗教法人の場合、包括宗教法人(各地域の下部組織(教区、都道府県神社庁等)を含む)に相談する
・包括宗教法人に属さない単立宗教法人、また被包括宗教法人で何らかの理由で包括宗教法人に相談できない法人は、所轄庁へまず相談する
・その他、各宗教団体の関係団体など相談窓口があるところは、そこに相談する(例:全日本仏教会など)
・解散には、どうしても費用がかかる。解散する宗教法人に資金もしくは資金となり得る財産があるかどうか、又は関係者等から援助頂けるがどうか、確認が必要。

※ ほかに、合併が可能かどうか、近隣又は関係のある他宗教法人へ打診することも考えられます。

 

 なお、17.の「補完・措置事項の提示」のように、荒れ果てた現状有姿で国庫に帰属させることはできないようです。このことについて、以前ある弁護士先生から、「なかなか認められない」旨伺ったのを、今回の事例に触れた際に思い出し、少し調べてみました。すぐに次の通知が出てきました。

財務省ウェブサイト内 「通知(令和)」
https://www.mof.go.jp/about_mof/act/kokuji_tsuutatsu/tsuutatsu/tsuutatsu_r.htm

「国庫に帰属する不動産等の取扱いについて」 
財務省理財局長から各財務(支)局長、沖縄総合事務局長宛
令和2年12月14日財理第3992号
https://www.mof.go.jp/about_mof/act/kokuji_tsuutatsu/tsuutatsu/TU-20200911-3021-14.pdf

これによりますと、PDFファイル4ページ「3 補完・要請」の注意書きで、

(注1)残余不動産に残置された動産については、相続財産管理人に対して撤去を依頼すること。

(注2)民法第 897条第 1項に規定する系譜、祭具及び墳墓の所有権は、同項の規定により、残余財産とならないことに留意すること。

(注5)残余不動産の土地上に老朽化等により使用に堪えない建物(第三者の権利付建物を除く)又は工作物若しくは枯損木(以下「老朽建物等」という。)が存在する場合については、当該老朽建物等の撤去及び撤去後に建物滅失登記申請を行うことを相続財産管理人に依頼すること。
(前記通知より)

など、細かく引き受けできる状態にすることの指示が記載されています。清算するにも、費用がかかるということですね。

 全くどこに相談するのかわからない関係者は、行政書士橋本にご相談下されば、どこに相談すればよいか、お伝えできると思います。