条例等探訪ノート =静岡県熱海市・後編=

第13回後編は、静岡県熱海市の散骨場の許可に関する条例等及び同条例施行規則並びに熱海市海洋散骨事業ガイドラインです。数年前、テレビなどで同市の散骨や墓地に関する事例が話題になった後、どのような変化があるか調査したみたところ、先駆的条例等の制定がありました。条例及び施行規則は、平成27年6月29日、ガイドラインは、平成27年7月1日に施行されました。

 

熱海市散骨場の経営の許可等に関する条例
熱海市散骨場の経営の許可等に関する条例施行規則
熱海市海洋散骨事業ガイドライン より

 

1 散骨場に関する定め


【散骨に関する定義】

散骨
墓地、埋葬等に関する法律第2条第2項に規定する「火葬」により生じた骨の粉末(その形状が顆粒状のもの及び遺灰を含む。以下同じ。)を地表等へ散布する行為

散骨場
散骨を行うための区域

近隣住民
散骨場の境界線からの最短距離が300mの範囲内に居住する者又は建物の所有者

(橋本注:300m以内の土地のみの所有者は、近隣住民から対象外となっていますが、散骨場と隣接する土地所有者からは、同意をとらなければならないこととなっています。)


【散骨場の経営主体になれない者】

1.~4.のいずれか

1.成年被後見人若しくは被保佐人又は破産者で復権を得ないもの

2.禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなった日から起算して5年を経過しない者

3.暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律第2条第6号に規定する暴力団員(以下「暴力団員」という。)又は暴力団員でなくなった日から5年を経過しない者

4.法人でその役員のうちに1.~3.のいずれかに該当する者があるもの

(橋本注:この条例は、経営主体になれる者の規定ではなく、なれない者のみ規定されています)

 

【許可の条件等】

市長は、必要な範囲内で、条件を付することができる


【許可の基準】

1.散骨場は、散骨場を経営しようとする者が所有し、かつ、地上権、抵当権、賃借権その他の権利が設定されていないものであること

2.土砂の流失防止等の災害防止対策を講じること

3.火葬により生じた骨の粉末の飛散防止及び流出防止等の対策を講じること

4.都市計画法第8条第1項第1号の規定により定められた用途地域以外の場所であること及びその境界線からの水平投影面における最短の距離が110m以上であること

5.国道、県道その他交通の頻繁な道路、河川、公共施設、農地、店舗、事業所、人家等の境界線からの水平投影面における最短の距離が110m以上であること

6.隣接する他の市町との区域の境界線からの水平投影面における最短の距離が110m以上であること

7.飲料水を汚染するおそれのない土地であること

8.地すべり、出水その他災害のおそれの少ない場所であること

9.散骨場の境界には、障壁又は密植した低木の垣根等を設けること

10.散骨場の周囲には、かん水設備等を配置した適切な緑地帯を設けること

11.駐車場を設けること
(例外規定) 市長が適当と認めるときは、駐車場の一部を当該散骨場に近接した場所に設けることができる

 

2 周辺地への対応の定め


この項は、表題の条例等の概略のみ掲載します。詳細を知りたい方は、表題の条例等を参照ください。

【事前協議】

市長との協議
市長の助言及び指導

【標識の設置】

標識の設置
市長へ報告書の提出

【説明会の開催】

近隣住民へ事前説明会の開催
市長へ説明会の内容その他の報告

【近隣住民との協議】

意見の申出があった場合

【隣接土地所有者の同意】

散骨場と境界を接する土地所有者の同意を得なければならない(散骨場経営計画同意書の取得)

【改善勧告】

次のいずれかに該当するとき、必要な措置を講ずるよう勧告することができる

① 許可の条件に違反しているとき
② 許可の基準に違反しているとき
③ 工事完了の届出をせず、又は工事完了の確認を受けずに散骨場を自ら使用し、又は事業者以外のものに利用させたとき
④ 経営状況その他必要な事項の報告をせず、又は虚偽の報告をしたとき
⑤ 立入検査を拒み、妨げ、若しくは忌避し、又は虚偽の答弁をしたとき

【改善命令】

改善勧告に従わないとき、必要な改善を命ずることができる

【許可の取消し】

いずれかに該当するとき、許可を取り消すことができる

① 改善命令に従わないとき
② 偽りその他不正の手段により許可を受けたとき

【使用禁止命令】

許可を受けずに散骨場の経営を行っている者に対し、当該散骨場の使用の禁止を命ずることができる

【原状回復命令等】

許可を取り消したとき、又は使用の禁止を命じたときは、事業者に対し、期限を定めて、原状回復その他必要な措置を命ずることができる

【公表】

命令に従わないときは、その旨を公表することができる

 


3 海洋散骨のガイドライン


上記の散骨場の条例等と直接リンクしているものではありませんが、熱海市長が定めた「熱海市海洋散骨事業ガイドライン」(以下、単に「ガイドライン」という。)を探訪します。近年、急速に広まった海洋散骨に関し、市長が特に定めたガイドラインとして注目しています。

【はじめに(基本的な考え方)】

散骨事業について、「いまだ国の法的位置付け(墓地、埋葬等に関する法律(以下「墓地埋葬法」という。)、刑法第190条)も必ずしも明確ではない」と前置きしながらも、

墓地埋葬行政を担う地方自治体としては、少なくとも次の二点が重要と考える。
① 社会的な規範が何らない無秩序な中で散骨事業が進むのではなく、一定の社会的規範が必要であること。
② 公衆衛生上の問題、国民の宗教的感情への適合、利用者の保護等の観点から、公共の福祉に支障を生じさせないよう相当な節度を持ったものであること。

と、このガイドライン作成に至った考えを示しています。

【目的】

目的海洋散骨を業として行う者に対して、本ガイドラインの遵守を要請することによって海洋散骨事業の適正化を図り、もって公衆衛生、国民の宗教的感情、利用者の保護、経済的影響等の観点から、公共の福祉に支障を生じさせないことを目的とする。

【適用範囲】

海洋散骨を行う事業者

【事業者の責務】

1.熱海市内の土地(初島含む。)から10キロメートル以上離れた海域で行うこと

2.海水浴やマリンレジャーのお客様の多い夏期における海洋散骨は控えること

3.焼骨をパウダー状にし、飛散させないため水溶性の袋へ入れて海面へ投下すること

4.環境保全のため自然に還らないもの(金属、ビニール、プラスチック、ガラスその他の人工物)を撒かないこと

5.事業を宣伝・広報する際に「熱海沖」、「初島沖」など「熱海」を連想する文言を使用しないこと

6.その他 【はじめに(基本的な考え方)】及び【 目的】を踏まえて、十分な配慮を行うこと

 

 


 

熱海市条例等の後編は、散骨場に関する市の実質の規制、及び海洋散骨事業に関する市長からの要請を明記した条例等を探訪しました。

今後、全国の地方公共団体に波及し、このような条例等の必要な状況に至っていくのでしょうか。いいかえると、故人の遺骨を散骨することが慣習となり得るかどうか、です。一時の、マスコミにもてはやされるムーヴメントは落ち着いていると感じます。現在の状況ではなんともいえないと、私個人は考えております。

熱海市だけ制定されている条例等なのかどうかと、周辺を調査したところ、他の地方自治体でも見つかりましたので、墓地等の許可等という関連で、今後探訪していきたいと考えております。